幸福なラストシーン
こんにちは、北原です。
仕事と劇団が忙しくなってしまった関係で、更新が滞ってました。
しかし、今週もいくつか作品を観ることが出来ましたので、
今日明日とかけて、複数記事を投稿できればと思います。
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重松清「きみの友だち」読了しました。その感想についてです。
(一部ネタバレを含みます。ご留意下さい)
以前、慶應義塾高校・女子高校演劇部が「きみの友だち」を舞台にしていたのを観て、
その世界に魅了されてから、原作も読もうと心に決めていました。
恵美ちゃんと由香ちゃん、二人の関係を軸とした、
「友だちって何だろう?」をテーマにした群像劇。
学校のクラスという逃げ場のない集団で、“みんな”の目を気にしながら生きること。
劣等感にまみれながらも、自分のペースで生きることしか出来ないこと。
そんな生きることの苦しさが丹念に描かれていたことが、僕の印象に残りました。
登場人物たちの生きる苦しさとは対照的に、
由香ちゃんという大切な友だちとの時間を生きた恵美ちゃんが
彼らに語ることばは、聞く人の心を自由にする力があって、
真夏の空のような清々しさがありました。
僕が小説でとても良いなと思ったのが、短編最後のお話です。
恵美ちゃんと短編の主人公だった子たちは、
最後の最後に一堂に会し、その後の人生を、きちんと生きている。
その人生は、幸せなものだとは言い難いものだったとしても、
それでも物語のラスト、恵美ちゃんを祝福するために登場し、
みんなお互いに“友だち”として、再会を果たす。
その画を思い浮かべると、とても満ち足りた気分になります。
小学生から中学生まで由香ちゃんと二人きりで過ごしていた恵美ちゃんに、
いつの間にかこんな友だちが出来ていて、
しかもフィアンセ、恵美ちゃんの最大の理解者まで現れて。
それまでの苦しみと葛藤に満ちた物語が、ここにきて一気に塗り替えられて
全てが人の温かさに包まれていて。
でも、人生もそんなものかもしれないなあ、と今ふと思いました。
人生に、辛いこととか悲しいことは山ほどあって。
しかし、それが一瞬にしてすべて反転する。そんな瞬間が存在している。
今までの苦しみとかが嘘みたいに幸せで、嘘みたいに満ち足りている。
そんな、魔法にかけられたようなひと時を、
恵美ちゃんたちと一緒に過ごすことができた気がします。
幸せでした。
それにしても、重松清さんは、いじめやコンプレックスなどの、
人間の陰湿な部分をきちんと正視しているのがすごいなと思いました。
僕には、とても出来そうにない。
だからこそ、追いかけたい作家さんだなとも思った。
人間の弱さとかみじめさをひっくるめて受け止めた上での、
ラストの幸せに溢れた場面づくり。
とても素敵だと思いました。
これからも、重松さんの作品を読み進めていきたいと思います。